着陸待ちの飛行機はどこにいる?羽田空港の手前で高さを分けて重なる「見えない塔」
着陸前に「しばらく上空で待機します」と案内されたとき、飛行機は羽田空港の真上ではなく、到着経路の途中に決められた地点で待っています。同じ地点の飛行機は高さを分けて重なり、管制の指示で順に抜けていきます。待機の形、地点と高さ、順番の決め方を地図と図で説明します。
この記事は、YouTube チャンネル「空のインフラ研究所」の動画を文章にしたものです。 YouTube で動画を見る
着陸の少し前に「しばらく上空で待機します」と流れて、窓の外の景色がゆっくり傾く。このとき飛行機がいるのは、羽田空港の真上ではありません。房総半島などの上空に決められた待機の地点です。同じ地点に集まった飛行機は、高さを分けて上下に重なって待っています。地上の行列は横に延びますが、空の行列は縦に積み上がります。
待っているときの形
待機と聞くと、空港の上をぐるぐる円を描いて回る姿を思い浮かべるかもしれません。実際の形は円ではなく、向かい合う2本の直線の両端を半円でつないだ形です。陸上競技場のトラックに近く、ここでは「楕円」と呼びます。

飛行機は決められた地点の上を通ってこの楕円を一周し、また同じ地点の上に戻ってきます。窓の景色が傾いてしばらくするとまた傾くのは、楕円の曲がり角を回っているからです。
回る向きにも決まりがあり、管制から特に指示が無ければ右回りです。左回りで待つ地点は、地図や管制の指示ではっきり示されます。直線の長さも、地点ごとに地図で決まっているものです。
同じ地点で何機も待つときの重なり方
混雑した日には、同じ地点へ何機もの飛行機が集まります。同じ楕円を何機も回ったら、ぶつかりそうなものです。
ぶつからないのは、高さを分けているからです。管制の決まりでは、近くを飛ぶ飛行機どうしの上下の間隔を、いちばん狭くても1,000フィート(約300メートル)と定めています。待機の地点では、この間隔を空けて飛行機が上下に重なっていきます。それが、混雑した日の待ち方です。

横から見ると、同じ形の楕円が何枚も積み重なっています。どの飛行機も目印は同じ地点で、回る向きも同じです。
羽田空港の手前のどこで待つのか
空には、空港へ入ってくるための道筋が決められていて、これを到着経路と呼びます。待機の地点が置かれているのは、この到着経路の途中です。羽田空港は風向きなどの運用で使う滑走路が変わり、それに合わせて使う到着経路も変わります。ここで紹介する地点は、北向きの滑走路を使うときの到着経路図に載っているものです。
北から来る経路は、茨城県の上空から南へ進み、千葉県の北端を通って、房総半島にある君津市の上空へ向かいます。君津市の上空にある待機の地点には、「クリーム」という名前が付いています(航空の地図で地点を呼び分けるための名前です)。飛行機はこのクリームのあたりで向きを変え、北西の羽田空港を目指します。途中の茨城県と千葉県北端の上空にも、待機の地点が1つずつあるので、北の経路には待機の地点が3つ並んでいることになります。
南から来る経路にある待機の地点は2つ。房総半島より南の海の上に1つと、房総半島の西寄り、君津市の上空にもう1つです。

地点ごとに決まっている高さの床
到着経路図をよく見ると、待機の地点ごとに、待ってよい高さの下限(最低待機高度)が書かれているのが分かります。北からの経路では、羽田空港に近い地点ほど下限が低く、茨城県上空の地点が11,000フィート、千葉県北端の地点が8,000フィート、クリームが4,000フィートです。空港へ近づくにつれて、待つ場所の床が階段のように下がっていきます。

この床は、さきほどの縦の行列と混同しやすいかもしれません。地点ごとに決まっているのは、その地点の行列が使ってよいいちばん下の高さです。縦の行列が積み重なるのは、その床より上の空です。
行列から抜ける順番を決めるのは誰か
羽田空港へ向かう飛行機は、何人もの管制官に引き継がれながら飛んでいます。高い空では広い範囲を受け持つ管制が見守り、空港に近づくと、空港の周りを受け持つ管制の担当に変わります。到着の順番を決めるのは、この空港の近くを受け持つ管制です。
管制はレーダーで飛行機の位置を見ながら、どの飛行機を先に降ろすかを決めます。順番は、原則として先に来た順。そのうえで1機ずつ、飛ぶ方向と高さと速さを指示し、必要なら待機を指示します。
順番を整える方法は、待機だけではありません。同じ頃に着きそうな飛行機が2機いれば、1機目はそのまま空港へ向かわせ、2機目には少し遠回りの方向を指示して前との間隔を空けます。速さを落とすよう指示して間隔を整えるのも、その1つです。
待機を指示するときは、どの地点で待つかに加えて、着陸へ向けた進入をいつ頃始められそうかという予定時刻も伝えます。見通しが変われば知らせ直すので、待っている飛行機は、自分の番がいつ頃来るかを知ったうえで楕円を回っているわけです。
自分の番が来たときに管制から出るのは、進入の許可や、次の地点へまっすぐ向かう指示です。指示を受けた飛行機は楕円を抜け、羽田空港へ向かう最後の道のりに入ります。

空で待つ飛行機を減らす工夫
空で待つ飛行機そのものを減らす工夫は、出発の前から始まっています。受け持つのは国の航空交通管理センター。空港へ集まってくる飛行機の数を前もって見積もり、混雑しそうなときは、出発する空港で離陸を遅らせます。空で待つ代わりに、地上で待ってもらうということです。

地上で待ってもらえば、混み合う空をそのぶん広く使えます。空で待つ飛行機や遠回りする飛行機が減れば、その分の燃料も節約できるという理屈です。
このセンターには、羽田空港と成田空港を担当する専門の班があり、空港がさばける数に合わせて、出発の時刻や、混み合う空へ入る間隔を指定しています。
飛んでいる途中で調整する方法も、試されているところです。飛行中の飛行機に、ある地点を通る時刻を指定する方式です。飛行機は指定された時刻に合わせて、巡航中に少しずつ速度を落とします。試験的な運用が始まったのは2023年3月で、2024年10月の資料でも、まだ試行の段階とされています。
それでも見積もりは見積もりなので、最後に到着の順番をそろえる場所は、空の上に必要です。その場所が、待機の地点にできる縦の行列でした。
機内から見た待機の時間
シートベルトのサインがついたまま「しばらく上空で待機します」と流れたら、自分の飛行機がいるのは、到着経路の途中にある待機の地点の上空です。同じ地点で何機も待っているなら、高さを分けて同じ楕円を回っています。番が来れば管制の指示で楕円を抜け、前の飛行機と間隔を空けて、羽田空港の滑走路へ降りていきます。
なかなか降りないと感じていたあの時間は、空に積み上がった縦の行列で、自分の番を待っていた時間でした。
この記事の範囲と資料
待機する地点の名前と最低待機高度は、国が航空機の運航に必要な情報をまとめて公表している航空路誌(AIP)にある到着経路図のうち、羽田空港で北向きの滑走路を使うときのものによります。風向きなどで使う滑走路が変われば到着経路も変わるので、いつもこの地点で待つとは限りません。南向きの滑走路を使うときに待つ地点は、この記事が扱う範囲の外です。同じ地点で待つ飛行機が上下どちらから順に入るかは、日本の管制の規程に定めが無いため、この記事では扱っていません。
地図の下地には Natural Earth(パブリックドメイン)を使いました。参照した資料は、下の「出典・参考」に載せています。